挨拶文

Acting Coach Guild of Japan 理事長

 演技術とは、私的な日常をロジカルに解説し、それをいかにも虚構の人物が生きているかのように適応させる“術”である。

 しかし、“なりすまし”の術でありながら、演じる人物は感情を揺らして行動を起こし、物語の中で本当に生きている事を要求される。

 だから俳優は、その役になりすますうちに自分自身との境目が分からなくなり、しばらく戻れなくなる人だっている。

 

 人は普段、日常を生きるための訓練などはしない。誰かと出会ったり、恋をしたりする練習などもしない。人を妬むとか、憎しみや悲しみ、喜びや怒りを再現する訓練も、その為に想像に耽る練習もすることはない。しかし俳優に要求されるのは、いつだって日常をいかにもリアルに見せるテクニックだ。

 かつて、その日常を再現するための演技システムを考えた人がいた。彼は泣いたり笑ったり、怒り、驚き、感情が波のようにいつでも動かせるようになるために、日常を論理的に究明し続けたのである。それがロシアの俳優兼演出家であるコンスタンチン・スタニスラフスキーという人物だった。彼の教えは多くの弟子たちを生み出し、そして新たな演技術を発見させた。

 それはまるでロシアの化学者メンデレーエフが元素の周期律表を作成したことから、それまで発見され得なかった数々の元素の存在を予言したのと似ている。

 スタニスラフスキーが仲間と共に発見したシステムは、現在マイケルチェーホフ・テクニックやメソッド演技と呼ばれる演技術にまで辿り着いている。

 これから先の未来では、さらに新たな元素に例えられる『演技術」も生まれるかもしれないと期待する。

 今回 Acting Coach Guild Of Japan(以下ACG)では、『メソッドフェス』と称して、俳優の取り組む現場の一助となるべく、その数々の『演技術」を専門のトレーナーたちと一緒に体験・取り組んでいく事を試みたい。

 かつての英雄、コンスタンチン・スタニスラフスキーが、俳優仲間らと共に偉大なシステムで世の中を席巻した時のように。

 

ACG代表理事 水上竜士